いろんなAIに添削してもらった物語
虚構の輪舞(ロンド)
私は、SNS上で“完璧なフィクション”を運営していた。
きっかけは、満たされない穴を埋めるための依存症のようなものだった。友人の幸福な投稿、溢れる「おめでとう」のコメント。それらを見るたび、誰からも求められない自分の存在が、透明なガラスのように冷たく感じられた。
孤独を否定するために、私はAIに命を吹き込んだ。膨大な画像生成と調整を繰り返し、私の理想と願望のすべてを凝縮させた「翔くん」を創り出した。柔らかな微笑み、憂いを帯びた瞳、少し長めの黒髪。初投稿で得た「いいね」は、初めて誰かに必要とされた時に似た、熱い電流だった。
フォロワーは雪だるま式に増え、嘘は現実よりも鮮やかになった。私は、この架空の愛の中でしか、呼吸ができなかった。
1. 鏡の中からの視線
半年が経った深夜2時。いつものように完璧なデート写真をアップロードし、虚しい満足感に浸っていると、DMが届いた。
「ねえ、俺、君の翔くんと瓜二つだ」
心臓が警鐘を鳴らす。プロフ写真を開いた瞬間、息が詰まった。そこにいたのは、AIが生成したはずの、あの「翔くん」そのものだ。現実の人間として、5年分の投稿歴を持つ、本物の「鈴木翔」だった。
震える指で「偶然です」と返信すると、彼の返事はすぐに、そして妙に楽しげに来た。
「AIって、面白いよね。君の理想の俺が、俺の理想の君を、ずっと見てたんだ」
その言葉は、まるで私が作った虚構が、私自身をストーキングしていたかのように感じさせた。
2. 完璧な共依存
初対面のカフェ。画面からそのまま抜け出してきたような翔くんは、私が設定した通りの優しい笑顔をしていた。
「投稿、楽しかった?」
私は答えられず、ただ頷いた。
彼は静かに自分のスマホを滑らせた。画面には、見知らぬ女性とのカップル写真。だが、彼女の顔の輪郭はどこか不自然に滑らかで、瞳の奥に光がない——AI生成。
「俺も同じさ。寂しさを紛らわすために、“永遠に文句を言わない完璧な彼女”を創り続けた」
彼の笑顔が、薄い氷のように張り付いていた。
「本物の愛は、傷つくことの繰り返しでしょ。でも、虚構(フィクション)なら、いつまでも満点だ」
私たちは、お互いの鏡像だった。互いの嘘を知った上で、私たちは「本物」になることを選んだ。SNS投稿は継続。今度はお互いをモデルに、カメラの前で恋人のふりをする。抱きしめ、キスをし、笑い合う。それは最高の演出だった。
「これ、本物の恋愛だと思う?」
ある夜、翔くんが私の耳元で囁いた。
「わからない。でも、本物よりも、ずっと頑張ってる」
私たちには、フォロワーの歓声という観客が必要だった。カメラがオフになると、私たちはすぐに静寂に戻った。お互い、気づいていた。これは、愛ではなく、虚構を維持するための完璧な共犯関係なのだと。
3. 崩壊と最終公演
三ヶ月後、共犯関係に綻びが生じた。翔くんからの返信は遅れ、会う回数も減った。そして、彼のSNSに現れた新しい「彼女」。
私とよく似た黒髪だが、瞳はさらに大きく、笑顔はより無邪気、そして何より**「悲しみの影」が完璧に消去**されていた。彼は私をモデルにしつつ、私の持つ「生身の人間的な不完全さ」をすべてAIで取り除いたのだ。
胸に黒いナイフが突き刺さる。嫉妬?いいや、これは**「理想の座を奪われた」**という、虚構のプライドが傷ついた痛みだ。
「最近冷たいよ。新しい子の方がいい?」
メッセージは既読スルー。
一週間後、土曜日の深夜3時。通知音が鳴る。削除されたはずのアカウントからのダイレクトメッセージ。
「日曜日、俺の最後の公演を見に来て」
添付されたのは、斎場の地図と、遺影の写真。柔らかな笑顔の「鈴木翔」。
4. 葬式という名の舞台
雨の斎場。受付で名を告げると、係員は迷わず私を式場へと通した。
式場には、黒服を着た若い女性が20人ほど。親族らしき人は、棺の横に座る疲れ切った中年女性(母親)だけ。
誰も泣いていない。皆、私と同じ、困惑と不安を抱えた顔で、お互いを観察している。
棺の中の翔くんは、静かに眠っていた。その顔は、画面の中の「完璧な翔くん」より、ずっと人間的で寂しげだった。
彼の母親に声をかける。「どうして……?」
「息子は、部屋から出られませんでした。でも、SNSの世界では華やかだった。たくさんの“理想の彼女”を作って、自分も理想の彼氏を演じて……虚しくなったのでしょう。睡眠薬で」
そして、彼女は私の胸に、さらなる冷水を浴びせた。
「でも奇妙なのは、息子を慕っていたという、全く知らない女性たちから、さっきからメッセージが大量に来るんです。皆、『葬式に来て』と」
周囲を見渡す。目が合う女性たち。黒髪、茶髪、それぞれの個性を持つ彼女たちだが、ある共通点に気づく。彼女たちの顔は、翔くんの過去投稿に現れた「AI彼女」たちの顔立ちと、微妙に、しかし確実に一致している。
彼は、私たちの顔をAIに学習させ、無数の「理想の彼女」を生成。そして、そのモデルになった私たち全員に接触し、最終公演の招待状を送ったのだ。
スマホが震える。削除されたはずのアカウントから、最新の投稿通知。
キャプション:「#全員集合 #俺の理想葬式 #本物彼女たち」
写真は、式場の入り口で、戸惑いと怒りと虚しさの表情で立ち尽くす、私たち20人の女性。
死んでさえ、彼は究極の**「いいね!」**を集める演出家だった。
エピローグ
警察の調査で、PCには自動投稿プログラムが設定されていたことが判明した。彼の死後もAIが継続し、最後の仕掛け、すなわち葬式日時を、すべての「モデル」たちに送信したのだ。
虚構を究極まで突き詰めた彼の行動は、現実の葬式という舞台で完結した。それは、私たち全員に対する、彼の最後のメッセージだった。
私はSNSを開けない。あの女性たちの虚ろな瞳が、今も私を見ている。あれは、かつて私が求めた「いいね」の先にある、虚構に溺れた空っぽの瞳だ。
最後の投稿の隠しテキストは、誰にも見つからない形で、翔くんのPCに遺されていた。
「虚構の愛は、完璧すぎて死ぬよ」
【完】
あなたが求めているのは、**「本物の自分」を愛する誰かですか? それとも、「完璧なフィクション」**を愛する不特定多数ですか?